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東京高等裁判所 昭和61年(行ケ)285号 判決

大阪府堺市浜寺元町四丁目四七八番地

原告

桜井実千代

右訴訟代理人弁理士

枠熊弘稔

東京都千代田区霞が関三丁目四番三号

被告

特許庁長官 植松敏

右指定代理人

安部弘教

後藤晴男

松木禎夫

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた判決

一  原告

1  特許庁が、同庁昭和六〇年審判第二〇三五九号事件について、昭和六一年九月二五日にした審決を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

主文同旨

第二  請求の原因

一  特許庁における手続の経緯

原告は、名称を「ハッチカバー装置」とする発明につき昭和五一年六月五日特許出願(特願昭五一年六五八二〇号)をし、これを昭和五四年一一月一五日実用新案法第八条の規定により実用新案登録出願に変更した(以下、本願出願にかかる考案を「本願考案」という。)ところ、昭和五六年八月一日出願公告(実公昭五六-三二三九二号)されたものであるが、訴外極東マック・グレゴー株式会社から実用新案登録異議の申立があり、審査の上、昭和六〇年六月七日に拒絶査定を受けたので、同年一〇月一二日、これに対し審判の請求をした。

特許庁は、同請求を同年審判第二〇三五九号事件として審理した上、昭和六一年九月二五日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年一一月一〇日、原告に送達された。

二  本願考案の要旨

格納架台Bにはハッチ開口部Aに向って下降する円弧部を有するレールを敷設すると共に、格納架台側寄り前方のハッチ開口部上縁に於ける水平レール面上の一定距離隔てた位置、即ち最後のハッチカバーの両側中間部附近に設けられる格納車輪と一つ前方ハッチカバーの後部両側に設けられる走行車輪との間の距離内位置に、一対の山型カムをハッチ開口内側壁面から外方に向って少し離れた並行状態で配置すると共に、各ハッチカバーの後部両側には前記ハッチ開口部上縁のレール面を走行するための一対の走行車輪が設けてあり、該走行車輪の車間距離を前記山型カムの対向間距離と一致するようになさしめるのほか、各ハッチカバーの中間部両側には前記走行車輪より外方に突出する如くなして一対の格納車輪を設けしめ、該車間距離は格納架台上のレール間距離と一致させると共に、その軸芯には一端が他のハッチカバーの後端縁にピンを使用して回動自在に止着させてなる連結アームの他端を回動自在に取付けてなり、また各ハッチカバーの隣り合う対向面には水平方向の突起体と該突起体と噛み合う凹部及びその下方の片側位置には同じく水平方向に突出するパッキンを設け、且つ上記突起体と凹部の噛合面は先細り状傾斜面に形成されてなり、ハッチカバーの被蔽操作時両者が自動的に嵌合してハッチカバー相互の水密が行われるようになされていることを特徴としたハッチカバー装置。(以下、本願考案につき本判決別紙本願考案図面参照)

三  本件審決の理由の要点

1  本願考案の要旨は前項のとおりである。

2  これに対して、拒絶査定の拒絶理由である登録異議決定の理由に引用された特開昭四八-八六二八五号公報(登録異議申立人極東マック・グレゴー株式会社の提出に係る審判事件甲第一号証(本訴甲第五号証)。以下「引用例」という。)には、「格納架台にはハッチ開口部に向うレールを敷設すると共に、格納架台近くのハッチ開口部上縁に於ける水平レール面上の位置に一対のキッカーをハッチ開口内側壁面から外方に向って少し離れた並行状態で配置すると共に、各ハッチカバーの後部両側には前記ハッチ開口部上縁のレール面を走行するための一対の走行車輪が設けてあり、該走行車輪の車間距離を前記山型カム(キッカー)の対向距離と一致するようなさしめるのほか、各ハッチカバーの中間部両側には前記走行車輪より外方に突出する如くなして一対の格納車輪を設けしめ、該車間距離は格納架台上のレール間距離と一致させると共に、その軸芯には一端が他のハッチカバーの後端縁にピンを使用して回動自在に止着させてなる連結アームの他端を回動自在に取付けてなり、また各ハッチカバーの隣り合う対向面にはビットと該ビットと噛み合うパッキングを設け、ハッチカバーの被蔽操作時両者が自動的に嵌合してハッチカバー相互の水密が行われるようになされているハッチカバーの連結装置。」が記載されている。

3  そこで、本願考案と引用例に記載されたものを対比すると、両者は、「格納架台にはハッチ開口部に向うレールを敷設すると共に、格納架台寄りハッチ開口部上縁に於ける水平レール面上の位置に、一対の山型カム(キッカー、以下、括弧内は引用例のものの相当部分を示す。)をハッチ開口内側壁面から外方に向って少し離れた並行状態で配置すると共に、各ハッチカバーの後部両側には前記ハッチ開口部上縁に於ける水平レール面上の位置に、一対の山型力ムを配置したハッチ開口内側壁面から外方開口部上縁のレール面を走行するための一対の走行車輪が設けてあり、該走行車輪の車間距離を前記山型カムの対向距離と一致するようになさしめるのほか、各ハッチカバーの中間部両側には前記走行車輪より外方に突出する如くなして一対の格納車輪を設けしめ、該車間距離は格納架台上のレール間距離と一致させると共に、その軸芯には一端が他のハッチカバーの後端縁にピンを使用して回動自在に止着させてなる連結アームの他端を回動自在に取付けてなり、また各ハッチカバーの隣り合う対向面には突起体(ビット)と該突起体と噛み合う凹部(長溝形ビット)及びその下方の片側位置にはパッキン(パッキング)を設け、ハッチカバーの被蔽操作時両者が自動的に嵌合してハッチカバー相互の水密が行われるようになされている点で一致しており、次の四点で相違する。

(一) 本願考案では、格納架台に敷設するハッチ開口部に向うレールがその方向に下降する円弧部を有するのに対し、引用例に記載されたものでは、その構成を備えていない点。

(二) 本願考案では、一対の山型カムを格納架台寄り前方のハッチ開口部上縁に於ける水平レール面上の一定距離隔てた位置、即ち最後のハッチカバーの両側中間部付近に設けられる格納車輪と一つ前方ハッチカバーの後部両側に設けられる走行車輪との間の距離位置に配置したのに対し、引用例に記載されたものでは、格納台側近くのハッチ開口部上縁に於けるレール面上の位置に配置した点。

(三) 本願考案では、突起体と凹部の噛合面は先細り状傾斜面に形成されているのに対し、引用例に記載されたものでは、その構成を備えていない点。

(四) 本願考案では、突起体、該突起体と噛み合う凹部及びその下方の片側位置のパッキンが水平方向に設けられているのに対し、引用例に記載されたものでは、それらが上方に傾斜して設けられている点。

4  これら(一)ないし(四)の相違点について検討する。

(一) 相違点(一)について

ハッチカバー装置の格納架台に敷設するハッチ開口部に向うレールがその方向に下降する円弧部を有するようにしたものは、例示するまでもなく本願の出願前周知であるから、引用例に記載されたものの格納架台に敷設するレールを(一)の点のように構成する点に考案の存在を認めることができない。

(二) 相違点(二)について

本願考案のこの相違する構成によっては明細書に記載のような格納スペースの激減、コーミングの高さの減少等の効果を奏するものとは認めちれず、そうであれば一対の山型カムを格納架台寄りの最後のハッチカバーの両側中間部付近に設けられる格納車輪と一つ前方ハッチカバーの後部両側に設けられる走行車輪の距離内位置に設けるか格納架台近くのハッチ開口部上縁に於ける水平レール面上の位置に設けるかによって作用効果上格別顕著な差異があるものとは認められないから、引用例に記載されたものにおける山型カム(キッカー)を本願考案におけるレール上の位置に設けることは当業技術者のきわめて容易に想到し得ることである。

(三) 相違点(三)について

この種の雄雌型の突起体及び凹部からなる連結装置においてその連結部を先細りとしたものは例示するまでもなく本願の出願前周知であるから、引用例に記載されたものにおける突起体及び凹部の噛合面を先細り状傾斜面に形成することは当業技術者のきわめて容易に想到し得ることである。

(四) 相違点(四)について

突起体等を水平方向に設けるか傾斜して設けるかというようなことは、この種のものの設計に際して当業技術者が必要に応じて採択し得る設計上の問題にすぎない。

5  以上総合して、前記(一)ないし(四)の相違点は全体としても当業技術者の容易に想到し得ることであり、またそれによる効果も引用例に記載されたもの及び本願の出願前周知のものから予測し得る以上の格別顕著なものを期待し得るものとは認められない。

6  したがって、本願考案は、引用例に記載されたもの及び本願の出願前周知のものに基づいて当業技術者がきわめて容易に考案をすることができたものであり、実用新案法第三条第二項の規定により、実用新案登録を受けることができない。

四  本件審決を取り消すべき事由

本件審決には引用例の構成を誤認し(認定判断の誤り第1点)、本願考案の特別顕著な作用効果を看過誤認した(認定判断の誤り第2点)結果、本願考案と引用例に記載のものの相違点(2)について、当業技術者のきわめて容易に想到し得ることとし、本願考案は引用例に記載されたもの及び本願の出願前周知のものに基づいて当業技術者がきわめて容易に考案することができたものと誤った判断をした(認定判断の誤り第3点)違法があるから、取り消されなくてはなちない。

なお、前記三(本件審決の理由の要点)中、3(一)(三)(四)の相違点の認定及び4(一)(三)(四)の相違点についての判断は認める。

1  認定判断の誤り第1点

(一) 本件審決は、引用例の構成中、キッカーの前後関係の位置を誤認した。

即ち、引用例のキッカーは、ハッチ開口部の横を外れた、ハッチ開口部後端よりも格納架台側に走行レールと連続して設けてあるものである。そのことは、引用例のキッカーの高まりの始まりがハッチ開口部の横、つまり、ハッチ開口部後端よりもハッチ開口部側にあると、ハッチカバーでハッチの蓋をすることが不可能になることから明かである。

これに対して、本件審決は、引用例のキッカーの前後関係の位置を、「格納架台近くのハッチ開口部上縁における水平レール面上の位置に一対のキッカーをハッチ開口部内側壁面から外方に向って少し離れた並行状態で配置する」(前記三2参照)及び「格納台側近くのハッチ開口部上縁におけるレール面上の位置に配置した」(前記三3(二)参照)と、引用例のキッカーの前後関係の位置を、ハッチ開口部の横、つまり、ハッチ開口部の後端からハッチ開口部側(格納架台の反対側)であって、格納架台に近い位置と誤認した。

(二) 被告は、引用例記載の第2図(本判決別紙引用例図面第2図)に符号28で示されている部分がコーミングの右端であると主張する。

しかし、引用例記載の第2図の符号28は、引用例にも「デッキ27との間に段差28が生ずる」と記載されているとおり、段差を表示する寸法線である。また、引用例には、「30はカバー29をコーミング26上へ誘導するガイドレールであって、該レールはハッチの長手方向に沿った一対のコーミングの各側に沿って水平に敷設され、コーミングの端部において上方へ少し突起するキッカー25となり、更にランプ31を形成してカバー格納所に通ずる」(甲第五号証三頁右上欄一七行から左下欄三行まで)と記載されており、ガイドレールがコーミングの端縁部では既に上方へ少し突起するキッカーとなっていることが、明記されている。

被告主張のとおり、符号28で示された線がコーミングの端縁部であるとすると、ハッチカバーの格納に際し、ハッチカバーは、コーミングの上端縁角部に邪魔されることと、後続のハッチカバーの走行車輪がキッカーを昇りきらない限り、後続のハッチカバーとのシールの嵌合状態が完全に外れないことの二つの理由から、当初ランプの走行面に沿って下降せず、コーミングの端縁部の前方水平方向ヘコーミング上縁と摺擦しながら無理やりに一定距離押し出され、その後ハッチカバーの重心が前側に移動した時点でハッチカバーが傾斜し、コーミング端部から外れ落ちる瞬間に走行車輪はランプと接触し、つりさげ車輪はガイドレールに乗ることになるが、このときはかなりの衝撃を伴い、カバー本体、レール、車輪、車軸の損傷という問題も生じる。また、前記の摺擦状態ではハッチカバー内面のシール用パッキングの損傷も問題となる。

逆に、ハッチカバーが引き出される場合も、右の逆動作となり、同様にコーミング端縁部を摺擦し、また、先行のハッチカバーの走行車輪がキッカーを昇降してシール接合部のシールが完了した瞬間には、それに続くハッチカバーは先行のハッチカバーと同一水平面になる必要からハッチ開口部端縁部でこね上げられ、ハッチ開口部端縁部の損傷やハッチカバーの板に無理な荷重による歪みを生ずる。

以上のとおり、引用例記載のものが被告主張のようなものであるとすると、当業技術者の常識では引用例記載のものは実施不能である。引用例記載のもののコーミング端縁部の位置は、原告の主張するとおり、キッカー位置からハッチ開口部側へずれた位置でなければならない。

2  本件審決の認定判断の誤り第2点

本件審決は、本願考案の特別顕著な作用効果を看過誤認した。

(一) 即ち、本願考案には、引用例記載のものと対比して、次のような特別顕著な作用効果がある。

今日、貨物船においては、船舶職員法施行令により船の総トン数の大きさによって、乗り組まなければならない船舶職員の数や資格が定められているので、わずかのトン数の増加が必要人件費の急激な増大に直結する。

また、東京湾、伊勢湾、瀬戸内海等国内の主要な海域では、船舶は定められた航路を航行する義務があるが、船の長さが五〇メートル未満の船はその義務がないので、時間待ち、航路の順番待ちがなく、運行、荷役が非常に便宜になる.

したがって、一定の総トン数及び一定の船の長さの限度内で、如何に効率よく最大限の積荷を運べるかが問題となる。

本願考案は引用例記載のものと対比して、〈1〉ハッチコーミングの高さを、法令で定められた限度に低く押さえ、〈2〉しかも一枚のハッチカバーの長さを長くし、〈3〉ハッチカバーの回転スペースを短くすることができる。

また、右〈1〉から、〈4〉船の総トン数を低く押さえることができ、〈5〉船の安定性を維持することができ、右〈2〉から、〈6〉同じハッチ開口部の長さであれば、ハッチカバーの枚数を少なくすることができる。

更に、右〈6〉から、〈7〉隣接するハッチカバーの継ぎ目の数が少なくなり、付属部品の数やくさびを使っての締め付け作業、開放作業の減少を図ることができ、〈3〉及び〈6〉から、〈8〉ハッチカバー格納スペースを減少させ、その分だけハッチ開口部の長さを長くすることができ、長尺物の積み荷等の荷役の便宜を図ることができる。

これに対して、引用例記載のもののような従来の装置は、ハッチコーミングの高さを法令で定められた限度に低く押さえようとすると、ハッチカバーの回転スペースが短くなり、一枚のハッチカバーの長さを短くせざるを得ず、ハッチカバーの枚数が増え、ハッチカバー格納スペースが長くなるという問題点がある。

本願考案は、右のような問題点を解決し、前記〈1〉から〈8〉までのような特別顕著な作用効果がある。

ところが、本件審決は、本願考案と引用例記載のものには、作用効果上特別顕著な差異があるものとは認められないと認定判断を誤った。

(二) 認定判断の誤り第1点で詳述したとおり、引用例記載のもののキッカーは、ハッチ開口部の横を外れた、ハッチ開口部後端よりも格納架台側に走行レールと連続して設けてあるものであり、引用例のものは、キッカーの分だけ格納架台スペースを大きく取る必要があるのに対し、本願考案ではその分だけ格納架台スペースを必要としないので、ハッチ開口部を拡大することができる。

別紙参考図に示された引用例のコーミング端縁部の位置は誤りである。

また、コーミングの高さを一定にして、引用例のもので長いハッチカバーを使用する場合は、ハッチカバーを回転させる必要から、回転のためのスペースを大きく用意する必要があり、その分だけ格納架台スペースが大となり、ハッチ開口部の長さを短くせざるを得ない.これに対し、本願考案では山型カムをハッチ開口部の中央寄りに移動させることにより、極めて長い寸法のものも回転のためのスペースを大きくしないで実施可能となる。

長いハッチカバーを使用できれば格納架台スペースを小にして、ハッチ開口部の長さを大きくすることができる。

被告は、別紙参考図に示される条件の場合は、第三(請求の原因に対する認否及び被告の主張)、三の2のイ及びロの構成要件を備えたのみでは、前記〈1〉ないし〈3〉の効果を必ずしも奏し得るものとは認められないと主張するが、右別紙参考図が不当なものであることは前記のとおりであるから、被告の右主張は当を得たものではない。

仮に、引用例記載のもののキッカーの位置が本件審決の認定のとおりであるとしても、引用例記載のものは、前記のような本願考案の優れた作用効果を奏することができない。

また、被告は、本願考案では山型カムと格納架台との高さ方向の位置関係がどうであるかということが規定されていないと主張するが、その格納架台の高さ方向の位置云々が何を指すものか明らかでない。もしそれが格納架台の、ハッチ開口部に向かって下降する円弧部を有するレールの起点位置や右円弧部の高さ寸法が規定されていないとの趣旨であれば、それは、ハッチカバーの長さをどれだけにするかによって定まる設計的事項であり、被告の主張は当を得ない。さらに、山型カムの高さや幅、ハッチカバーの長さも、船の大きさやハッチカバーの肉厚、シール条件などによって定まる設計的事項であり、この点でも被告の主張は当を得ない.図)には、コーミング26の上縁の縁のうち、ハッチカバー29に隠れて見えない所は点線で、見える所は実線で示されおり、そのコーミング26の右端は符号28でデッキ27との段差として表示されていてそのコーミング26の終端の縁は、ランプ等がある見えないところでは点線で、何もなく見える所では実線で示されている。そして、その終端の線から少し内側(図の左側)に寄った部分、即ち端部の部分であって、本願考案の格納架台に相当するガイドレール側近くにキッカーがある。そのキッカー25はハッチ開口部上縁における水平ガイドレール30面上の位置にハッチ開口内側壁面から外方に向かって少し離れて並行状態で配置されていて、そのキッカー25に連続して格納所に至るランプ31が傾斜して設けられている。

更に、引用例記載の第6図(本判決別紙引用例図面第6図)には、引用例の水平ガイドレール30はコーミング26の外側のハッチ開口部上縁にその開口内壁面から少し離れてコーミング26に沿って設けられていることが図示されている.

したがって、引用例記載のキッカーの前後関係の位置を、本件審決が、「格納架台近くのハッチ開口部上縁における水平レール面上の位置に一対のキッカーをハッチ開口部内側壁面から外方に向って少し離れた並行状態で配置する」及び「格納台側近くのハッチ開口部上縁におけるレール面上の位

3  本件審決の認定判断の誤り第3点

本件審決は、右1のとおり引用例記載のものの構成を誤認し、右2のとおり本願考案の特別顕著な作用効果を看過誤認した結果、本願考案と引用例に記載のものの相違点(2)について、当業技術者のきわめて容易に想到し得ることとし、本願考案は引用例に記載されたもの及び本願の出願前周知のものに基づいて当業技術者がきわめて容易に考案することができたものと判断を誤った。

第三  請求の原因に対する認否及び被告の主張

一  請求の原因一ないし三は認めるが、同四は争う。本件審決の認定判断は正当であり、原告主張の取消事由はない。

二  認定判断の誤り第1点について

引用例には、「26はハッチ四囲に突出させたコーミングであって、デッキ27との間に段差28が生ずる。29はハッチカバーであって・・・30はカバー29をコーミング26上へ誘導するガイドレールであって、該レールはハッチの長手方向に沿った一対のコーミングの各側に沿って水平に敷設され、コーミングの端部において上方へ少し突起するキッカー25となり、更にランプ21を形成してカバー格納所に通じる。」との記載(甲第五号証三頁右上欄一一行から同左下欄三行まで)がある。

また、引用例記載の第2図(本判決別紙引用例図面第2置に配置した」と認定したことに誤りはない。

引用例記載のものの最後のハッチカバー29が閉鎖されたときは、本判決別紙参考図(1)(なお、同図は説明のための略図であり、寸法又は比率が同図のとおりであるものではない。)の下図のような状態にあり、その時、キツカー25はそのハッチカバー29の車輪32と連結ロッド35の一端の長円孔62の中にあるハッチカバー29の側板の支軸63との間辺りに位置して閉鎖状態を維持するものである。

三  認定判断の誤り第2点について

1  本願考案の要旨の構成では、原告主張のような効果を必ずしも奏し得ず、その構成によって奏することのできる効果は、本件審決に記載されているように、引用例に記載されたもの及び本願の出願前周知のものから予測し得る以上の格別顕著なものとは認められない。

2  本願考案が、原告主張の〈1〉ないし〈3〉の効果を奏することは争う。

本願考案の構成要件のうち、右〈1〉ないし〈3〉の効果を奏することに関連すると思われる、イ「格納架台Bにはハッチ開口部Aに向って下降する円弧部を有するレールを敷設すると共に、格納架台寄り前方のハッチ開口部上縁に於ける水平レール面上の一定距離隔てた位置、即ち最後のハッチカバーの両側中間部附近に設けられる格納車輪と一つ前方ハッチカバーの後部両側に設けられる走行車輪との間の距離内位置に、一対の山型カムをハッチ開口内側壁面から外方に向って少し離れた並行状態で配置する」及び、ロ「格納車輪・・・の軸芯には一端が他のハッチカバーの後端縁にピンを使用して回動自在に止着させてなる連結アームの他端を回動自在に取付けてなり、」との構成を備えたのみでは、前記〈1〉ないし〈3〉の効果を必ずしも奏し得るものとは認められない。

即ち、本願考案のようなシングルプル形式の連結ロッドを備えたタイプのハッチカバー装置では、乙第一号証にも記載されているように、格納架台の高さを高くすること、即ちハッチカバーを格納した場合のその重心を高くすることによってコーミングの高さを低くすることが普通に行われている。そのことは本願考案のように山型カムを特定の位置、即ち最後のハッチカバーの両側中間部付近の格納車輪と一つ前方のハッチカバーの後部両側の走行車輪の間の位置に設けることとは無関係である。また、本願考案では山型カムと格納架台との高さ方向の位置関係がどうであるかということが規定されていないから、結局、右イ、ロの構成要件を備えたのみでは、〈1〉のハッチコーミングの高さを、法令で定められた限度に低くできるものとは必ずしも認められず、別紙参考図(2)で示される特定の条件の場合には、引用例に記載のものでも同様な効果が達成できるものである。

また、〈2〉の一枚のハッチカバーの長さを長くできるという効果については、右イ、ロと同様に山型カムの前後方向の位置及び連結アームの取付位置を規定しても、それだけの構成要件の限定によってはハッチカバーの長さが別紙参考図(2)の場合のように必ずしも長くできるものでもないから、〈2〉の効果は、引用例に記載のものに比べて格別顕著な効果とも認められない。

さらに、〈3〉のハッチカバーの回転スペースを短くすることができるという効果については、前記同様に本願考案の構成要件であるイ、ロを充足しただけのものでは、別紙参考図(2)に示されたもののように、逆に本願考案が引用例に記載のものよりも回転スペースが長く、また別紙参考図(2)に記載されたものにおいて本願考案の山型カムの高さa1を引用例の山型カム(キッカー)の高さa2と等しくした場合にも、本願考案と引用例に記載されたものは山型カムの前後方向の位置が異なるだけであるが、やはり本願考案の方が回転スペースは長くなることは明らかであり、本願考案が引用例に記載されたものと比較して回転スペースを短くすることができるとは一概にいうことはできない.そうすると、その効果は格別の効果とは認められない.

3  前記〈1〉及び〈2〉の効果が、必ずしも達成できない以上、〈1〉及び〈2〉から達成されると原告の主張する〈4〉ないし〈6〉の効果も、奏し得るものとは必ずしもいえない。

本願考案の構成要件中、前記イ、ロを備えたのみでは、ハッチコーミングの高さを法令で定められた限度に低く押さえることは必ずしもできないものであり、そうであれば、別紙参考図(2)の場合のように山型カムの高さ以外の格納架台の高さ、格納スペースの長さが同じであって、ハッチコーミングの高さが本願考案、引用例に記載されたものの両者において等しいこともあり、また本願考案のコーミングの高さが引用例に記載されたものよりも高い場合もあり得るから、船の総トン数を低く押さえることができるとは必ずしもいえない。そして、その場合には、船の重心が下がることには必ずしもならないから、船の安定性は必ずしも良くならない。

さらに、前記2のとおり、〈2〉の一枚のハッチカバーの長さを長くできるものとは必ずしもいえない以上、〈6〉の同じハッチ開口部の長さであれば、ハッチカバーの枚数を少なくすることができるという効果も、必ずしも奏することができるものではない。

4  前記〈6〉の効果が、必ずしも達成できない以上、〈7〉の効果も必ずしも奏し得ないことは当然である。つまり、開口部の長さが同じ物においてハッチカバーの枚数を必ずしも少なくすることができなければ、ハッチカバーの継ぎ目の数を必ずしも少なくすることはできず、そうすると、付属部品の数や、くさびを使っての締付け作業、開放作業の減少も必ずしも図れない。

また、前記〈3〉及び〈6〉の効果が、必ずしも達成できない以上、〈8〉のハッチカバー格納スペースを減少させ、その分だけハッチ開口部の長さを長くすることができ、長尺物の積み荷等の荷役の便宜を図ることができるという効果は必ずしも奏し得ない。

四  認定判断の誤り第3点について

前記のとおり、本件審決の引用例記載のものの構成についての認定には誤りがなく、本願考案による効果は引用例記載のものの効果に比べて格別顕著なものとは認められず、またその効果も引用例記載のもの及び本願の出願前周知のものから予測し得る以上のものとは認められないから、結局、本願考案と引用例に記載されたものとの相違点(2)について当業技術者のきわめて容易に想到し得るものとし、本願考案は引用例に記載されたもの及び本願出願前周知のものに基づいて、当業技術者がきわめて容易に考案をすることができたものであるとした本件審決に誤りはない.

第四  証拠関係

証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願考案の要旨)、三(本件審決の理由の要点)は当事者間に争いがない。

二  認定判断の誤り第1点について

1  成立について当事者間に争いのない甲第五号証によれば、引用例には、

引用例記載のもののコーミングとキッカーの位置及び引用例記載のものの効果に関して次のとおりの記載のあることが認められる。

(一)  本発明の目的は、・・・各カバーの直列展開時における接続部の緊締が確実でシール効果が完全であると同時に、並列格納に移行する際におけるそれらの離脱が円滑容易になし得べきハッチカバーの自動連結装置を創作して提供するにある(甲第五号証二頁左下欄八行から一三行まで)。

(二)  26はハッチの四囲に突出させたコーミングであって、デッキ27との間に段差28が生ずる(甲第五号証三頁右上欄一一行から一二行まで)。

(三)  30はカバー29をコーミング26上へ誘導するガイドレールであって、該レールはハッチの長手方向に沿った一対のコーミングの各外側に沿って水平に敷設され、コーミングの端部において上方へ少し突起するキッカー25となり、更にランプ31を形成してカバー格納所に通ずる(甲第五号証三頁右上欄一七行から左下欄三行まで)。

(四)  キッカー25は各カバーが水平位から垂直位へまたはその逆に移行する際、接続部の係合または離脱を円滑にし、パッキング部がコーミングの端縁に接触して損傷が生じないようにし、またカバー格納スペースに余裕(「予裕」とあるのは誤記と認める。)がない場合に効果的であって(甲第五号証三頁左下欄三行から八行まで)。

(五)  33は各カバー29を垂直位につり下げる車輪であって、該車輪は各カバーの重心をややはずした両側面外に設け、並列格納時には自重で垂直位を保つように設計する。34は該つりさげ車輪のガイドレールであって格納位置上の両側に架設すると共に、カバー29がランプ31からキッカー25を経てハッチコーミング26上に運び出されるときまたはその逆行動をとるときカバー29の内側がハッチコーミング26の端縁に引っ掛からないように起伏時においてもカバー29を適宜の高さにつりあげておく(甲第五号証三頁左下欄一四行から一九行まで)。

(六)  49はカバー29の側面内側水平方向に設けたパッキングであって、溝枠50の内部に収容されており、カバーの直列的展開固定時にコーミング26の上面に密接してシールするものである。該パッキング49の帯はカバー29のスカート51より上方に設け、少くとも下側の回転中心となる歯型46の中心部より上側に取りつけることを要する(甲第五号証四頁右上欄六行から一三行まで)。

(七)  本発明の独特の効果を以下に述べる。

(1) 先ず、船の揺動と風波による各種の圧力に対してカバーの接続部の係合は完全に緊密な状態を維持し得る。すなわち、カバー接続部に対して作用する引きはなそうとする力(引張力)は連結ロッド35の中間部に設けたローラー64が曲線ガイド65によって直列展開時引き諦められることにより防止され、カバー接続部に対して作用する上下方向のせん断力は接続部で互いに係合する噛み合い歯38、38a・・・42aおよび46、47により防止され、更にカバーの巾方向に作用する圧力はハッチコーミング26の外側に垂れ下がるスカート51により防止される。

(2) 次にカバー接続部のシール手段を噛み合い歯の上下両端間に収まるようにしたため該接続部が上下に角変位するとき何れもその回転中心の外側に位置しないからパッキングが損傷せずシール性能は安全に保たれる.

(3) またハッチコーミング26の側縁に位置するガイドレール30(「31」とあるのは誤記と認める.)にキッカー25を形成してランプ31の上端を高めたので、カバー29が直列展開から並列格納へまたはその逆へ移行する際接続部の結合と離脱に無理がかからず、コーミング26の端縁にパッキングが接触して損傷を生ずるおそれがなくなり、或はカバーの格納スペースに余裕がない狭い場所でもランプ31の占有空間がキッカー25の存在によってそれだけ減少するからカバーの収納が可能となる。・・・

(4) その外更に、カバー接続部の係合と離脱の操作時その回転中心となる噛み合い歯の係合が終始緊密であるように接続部間の距離を引き締めておく案内装置が存在するため移行の途中で外れるようなトラブルが生ずるおそれなく操作の確実性がそれだけ高まった。・・・

(以上(1)ないし(4)につき甲第五号証五頁右上欄八行から右下欄二行まで)

(八)  第2図は本発明によるハッチカバーの具体的実施例を示す概略側面図(甲第五号証五頁右下欄八行から九行まで)。

(参照番号の説明として)28・・・段差(甲第五号証六頁左上欄八行目).

(九)  第1図ないし第7図として、本判決別紙引用例図面の第1図ないし第7図のとおりの図面.

2  右(二)、(三)の記載及び別紙引用例図面中の第2図、第5図、第6図によれば、引用例記載のもののガイドレールとその延長部分が形成するキッカー及びランプは、ハッチの長手方向に沿った一対のコーミング及びその延長線の各外側に沿って取り付けられており、ハッチカバーの格納位置の両側では、更に前記キッカー及びランプの外側につりさげ車輪用のガイドレールが架設されているものと認められる。

3  右1(八)の記載及び引用例の第2図の記載自体によれば、引用例の第2図は、引用例の具体的実施例におけるハッチカバーの移動時の作用状態を示す概略の側面図であると認められる。

一般に、機械器具の作図方法として、側面図を描く場合には、機器を側面から見た状態においてそのまま見える部分を実線で描き、見えない部分は必要に応じて破線で描くのが、慣用されている作図法である。

前記1(六)の記載と引用例の第5図及び第6図によれば、引用例記載のもののコーミングの上縁は、ハッチカバーが展開した状態においてハッチカバーの側面の下部にあたるスカートの下縁より高い位置にあり、側面から見た場合、コーミングの上縁はハッチカバーのスカートに覆われて見えない状態にあることが認められる.

右の事実を念頭において、引用例の第2図(本判決別紙引用例図面第2図)の図示を検討すると、ガイドレール上に展開された左から一枚目(左側部分が省略されて一部右側部分のみが図示されている)及び左から二枚目のハッチカバーの側面の中程からやや下にハッチカバーの下縁に平行に表された破線が、左から三枚目の、キッカーに右端が乗り上げたハッチカバーの下及び図の最左端に僅かに表されたコーミングの上端を示す実線とを結ぶ線に一致することから、前記左から一枚目及び二枚目のハッチカバーの側面の中程からやや下に表された破線は、ハッチカバーのスカートに覆われて見えないコーミングの上縁を示すものと認められる。

このことから、引用例の第2図も、引用例記載のものを側面から見た状態においてそのまま見える部分を実線で描き、見えない部分は必要に応じて破線で描くという一般に慣用されている作図法を採用しているものと認められる。

4  そこで、さらに引用例の第2図について検討するに、第2図には、左から三枚目の、キッカーに右端が乗り上げたハッチカバーの下に表されたコーミングの上端を示す実線から右へ、キッカー25及びつりさげ車輪のガイドレール34と重なる位置に、コーミングの上端の延長に一致する破線が表されていること、その破線の右端から垂直に下方へ28の参照番号が付された線が表されていること、右28の参照番号が付された線は、上半分のつりさげ車輪用のガイドレール34及びランプ31と重なる部分は破線で、ランプより下デッキ27までの部分は実線で表されていること、第2図には線28の他にはコーミングの右端縁を示すものと解される線は認められないこと、線28がコーミングの右端緑を示すものでないとした場合線28に該当するものがないことが明らかである。

そして、前記2に認定した、引用例記載のもののガイドレールとその延長部分が形成するキッカー及びランプは、ハッチの長手方向に沿った一対のコーミング及びその延長線の各外側に沿って取り付けられており、更に前記キッカー及びランプの外側につりさげ車輪用のガイドレールが架設されているという引用例記載のものの構成と、前記3に認定した、引用例の第2図も、引用例記載のものを側面から見た状態においてそのまま見える部分を実線で描き、見えない部分は必要に応じて破線で描くという作図法を採用していることからすれば、右第2図に図示された線28がコーミングの右端縁を示すものとして何ら矛盾はない。

右のような第2図の図示そのものに即してみても、線28はコーミングの右端縁、即ち、ハッチ開口部後端を示すものと認めることができる。

5  また、前記1の(二)及び(八)認定のとおり、参照番号28は「デッキ27との間に段差28が生ずる。」あるいは「段差」と説明されているが、これらの説明は、コーミング26の上縁とデッキ27とが28の部分において段差が付けられているとの趣旨と理解することができるものであり、この段差の付いた部分が第2図に示されたコーミングの右端縁、即ち、ハッチ開口部後端であると認められる。

原告は、引用例の第2図の符号28は、引用例の「デッキ27との間に段差28が生ずる」と記載されているとおり、段差を表示する寸法線である旨主張する。

しかし、寸法線であればガイドレール及びランプと重なる部分は破線、そうでない部分は実線という表示は不自然であり、また、引用例の記載は前記のとおりに解することができるから、右主張は採用できない。

さらに、前記1(三)認定の、参照番号30の「ガイドレール・・・は・・・コーミングの端部において上方へ少し突起するキッカー25となり、」との記載も、キッカーが形成されるのがコーミングの端縁を外れた部分ではなく、コーミングの端の部分であることを示しており、引用例の第2図の線28がコーミングの右端縁、即ち、ハッチ開口部後端を示すものとすることに沿うものである。

原告は、前記1(三)認定の引用例の記載を、ガイドレールがコーミングの端縁部では既に上方へ少し突起するキッカーとなっていることが明記されている旨主張する。

しかし、右記載中、「コーミングの端部において」の語句は「キッカー25となり」の語句に続くものであり、「上方へ少し突起する」との語句は「キッカー25」を形容するものと解するのが自然であり、したがって、前記認定のような意味と認められ、原告の右主張は採用できない。

しかも、前記1(五)認定の、「34は該つりさげ車輪のガイドレールであって・・・カバー29がランプ31からキッカー25を経てハッチコーミング26上に運び出されるときまたはその逆行動をとるときカバー29の内側がハッチコーミング26の端縁に引っ掛からないように起伏時においてもカバー29を適宜の高さにつりあげておく」との記載によれば、ハッチコーミングの端縁は、カバーがつりさげ車輪によってガイドレールにつりあげられることによって引っ掛からないようにできる位置にあることが認められ、このことは、前記引用例の第2図の線28がコーミングの端縁を示すものとすることに沿うものである。

6  右4及び5に判断したところによれば、引用例の第2図に表された線28がコーミングの右端縁を示すものと認められ、第2図における線28とキッカー25の位置を対比すれば、引用例記載のもののキッカーの前後関係の位置を、「格納架台近くのハッチ開口部上縁における水平レール面上の位置に一対のキッカーをハッチ開口部内側壁面から外方に向って少し離れた並行状態で配置する」及び「格納台側近くのハッチ開口部上縁におけるレール面上の位置に配置した」と、即ち、キッカーの前後関係の位置は、ハッチ開口部の横、つまり、ハッチ開口部の後端からハッチ開口部側(格納架台の反対側)であって、格納架台に近い位置と認定した本件審決の認定に、原告主張の誤りはない。

7  原告は、引用例記載のもののキッカーの高まりの始まりがハッチ開口部の横、つまり、ハッチ開口部後端よりもハッチ開口部側にあると、ハッチカバーでハッチの蓋をすることが不可能になることから、引用例記載のもののキッカーは、ハッチ開口部の横を外れた、ハッチ開口部後端よりも格納架台側に設けてあるものである旨主張するので、この点について検討する。

(一)  前記甲第五号証によれば、引用例記載のもののハッチカバーが、並列格納の状態からハッチコーミング上への直列展開に移行する場合及び直列展開の状態から並列格納の状態に移行する場合に、ハッチカバーは次のように作動することが認められる。

(1) 先ず並列格納の状態からハッチコーミング25上への直列展開に移行する場合、第2図において、キッカー25上に先行カバー29の後端(受動端側37)がさしかかると、つりさげ車輪33でガイドレール34上に垂直位にされていた後続カバー29の先端(能動端側36)が連結ロッド35に引っ張られると同時に後続カバー29の後端の車輪32がランプ31の登り口に接触して引きとめられるので、カバー全体がほぼランプ31の傾斜に沿った状態で傾き、後続カバー29の先端(能動端側36)が先行カバー29の後端(受動端側37)に接近する(甲第五号証四頁左下欄一九行から右下欄一〇行まで)。

(2) そのとき、第7図に詳細に示すように、連結ロッド35の中間に設けた引き締めローラー64が溝形曲線ガイド65に嵌合しこれに誘導されるので、カバー29の両接続端部36、37の距離は上記手段によって引き締められ、受動端側37の下端に設けたピット47に向って能動端側36の下端に設けた歯形46が接近し、やがて歯形46はピット47内に正しく嵌合する。この歯形46とピット47との噛み合い状態を維持しながら後続カバー29は連結ロッド35の引き締めローラー64と溝形曲線ガイド65との対偶を介してカバーの重心に近い位置に設けた車輪33を軸とし角変位しつつハッチコーミング26上に引き上げられていく(甲第五号証四頁右下欄一〇行から五頁左上欄一〇行まで)。

(3) その間、カバー接続部間の距離はガイド65内を変位するローラー64の作用によって益々連結ロッド35が引き締められていくから、回転中心となっている歯形46とピット47との係合はいささかもゆるまず、カバーの能動端側36が次第に引き起こされ、への字形(第7図参照)から一文字形(第3図参照)となる。このとき、上端の歯形38とピット42もまた係合するに至る(甲第五号証五頁左上欄四行から一一行まで)。

(4) 一旦一文字形になったカバー接触部はカバー29の後端に設けた車輪32がキッカー25上に乗り上げるため、第7図の点線で示すように、一時的に上方へ反転して逆への字形となる。しかしながら、このとき両者の回転中心は上端の歯形38に移行し、該歯形とピット42との係合はローラー64とガイド65との対偶によって連結ロッド35が適正位置に引き締められることにより保証される(甲第五号証五頁左上欄一二行から二〇行まで)。

(5) このような過程を経て、カバー29は最終的に一文字形となり、両接続部はローラー64の作用により連結ロッド35が最大限に引き締められ、コーミング26上に直列展開して固定される(甲第五号証五頁左上欄二〇行から右上欄一〇行まで)。

(6) 次に、直列展開の状態から並列格納の状態にカバーが移行する場合は、概ね上記と逆の作用を経る(甲第五号証五頁右上欄五行から七行まで)。

(二)  右認定のとおり、引用例記載のもののハッチカバーが、並列格納の状態からハッチコーミング上への直列展開に移行する場合、ハッチカバーは、右(一)(1)ないし(5)の作用をその順に、直列展開の状態から並列格納の状態に移行する場合には概ねそれと逆の作用を経るものであるところ、右(一)(3)の、「への字形(第7図参照)から一文字形(第3図参照)となる」とは、引用例の第7図及び第3図の対比からも、後続カバーがハッチコーミング上に運び出されて、すでにハッチコーミング上にある先行カバーとの接続状態が一文字形となる状態であり、その後の(一)(4)の状態においては、「カバー29の後端に設けた車輪32がキッカー25上に乗り上げる」ことからすれば、ハッチカバーの後端に設けた車輪がランプを登ってきて、そのデッキからの高さが、キッカーの左側のガイドレール30上の先行カバーの車輪と同じになった状態であり、その状態においても先行カバーと後続カバーの接続部は第3図のように係合しているものと認められる。

そうすると、引用例記載のもののハッチカバーが、並列格納の状態からハッチコーミング上への直列展開に移行する場合、最後の一枚のハッチカバー、即ち、第2図でいえば最右端のハッチカバー、を除く他のハッチカバーは前記(一)(1)ないし(5)の状態を経るものであるが、最後の一枚のハッチカバーについては(一)(3)の先行カバーと一文字形で係合した状態で停止するものとすれば、前記認定のように、引用例記載のもののキッカーの高まりの始まりが、ハッチ開口部の横、つまり、ハッチ開口部後端よりもハッチ開口部側にあっても、ハッチカバーでハッチ開口部の蓋をすることが可能であると認められる。第2図においても、最右端のハッチカバーの後端に設けた車輪がランプを登ってきて、そのデッキからの高さが、キッカーの左側のガイドレール30上の先行カバーの車輪と同じになり、右(一)(3)の先行カバーと一文字形で係合した状態を想定すると、最右端のハッチカバーは線28で表されるハッチコーミングの右端縁までを完全に蓋をするような位置関係に、ハッチカバーとその車輪、ハッチコーミング、ガイドレール、キッカー、ランプ等が図示されていることが認められる。

以上の事実によれば、引用例中の明細書には、引用例記載のもののハッチカバーが、並列格納の状態からハッチコーミング上への直列展開に移行する場合、最後の一枚のハッチカバーについては前記(一)(3)の先行カバーと一文字形で係合した状態で停止し固定されることは明記されていないものの、前記(一)(3)(4)に引用した個所及び引用例の第2図には右のことが示唆されているものと認められる.

したがって、引用例記載のもののキッカーの高まりの始まりがハッチ開口部の横、つまり、ハッチ開口部後端よりもハッチ開口部側にあると、ハッチカバーでハッチの蓋をすることが不可能になるものとは認められず、原告の前記主張は採用できない。

8  原告は、引用例の第2図に符号28で示された線がコーミングの端縁部であるとすると、ハッチカバーの格納に際し、ハッチカバーは、コーミングの上端縁角部に邪魔されることと、後続のハッチカバーの走行車輪がキッカーを昇りきらない限り、後続のハッチカバーとのシールの嵌合状態が完全に外れないことの二つの理由から、ハッチカバーは、当初ランプの走行面に沿って下降せず、コーミングの端縁部の前方水平方向ヘコーミング上縁と摺擦しながら無理やりに一定距離押し出される等により、カバー本体、レール、車輪、車軸及びシール用パッキングの損傷という問題が生じ、逆に、ハッチカバーが引き出される場合も、右の逆動作となり、同様にコーミング端縁部を摺擦する等により、ハッチ開口部端縁部の損傷やハッチカバーの板に無理な荷重による歪みを生じ、当業技術者の常識では引用例記載のものは実施不能である旨主張するので、この点について検討する。

(一)  前記7(一)に認定のとおり、引用例のハッチカバーが、並列格納の状態からハッチコーミング上への直列展開に移行する場合、ハッチカバーは、7(一)の(1)ないし(5)の作用をその順に、直列展開の状態から並列格納の状態に移行する場合には概ねそれと逆の作用を経るものであるところ、引用例の第2図の線28がコーミングの右端縁の線であるとした場合に、その端部上縁とハッチカバーの下面との接触が問題となるのは、ハッチカバーが右7(一)(1)のうちカバー全体がほぼランプ31の傾斜に沿った状態で傾き、後続カバー29の先端が先行カバー29の後端に接近する状態にある場合、同(2)の状態にある場合及び同(3)のうち後続カバーがハッチコーミング上に運び出されて、すでにハッチコーミング上にある先行カバーとの接続状態が一文字形となったときを除く場合であると認められる。

(二)  ところで、右(1)の状態では、つりさげ車輪33でガイドレール34上に垂直位にされていた後続カバー29の先端(能動端側36)が連結ロッド35に引っ張られると同時に後続カバー29の後端の車輪32がランプ31の登り口に接触して引きとめられるので、カバー全体がほぼランプ31の傾斜に沿った状態で傾くのであるから、後続カバーのつりさげ車輪はつりさげ車輪のガイドレールに支持されカバーの少なくともつりさげ車輪のある側の端部をつりあげているものと認められる。

また、右(2)の状態では、後続カバー29は、車輪33を軸とし角変位しつつハッチコーミング26上に引き上げられていくのであるから、この場合も後続カバーのつりさげ車輪はつりさげ車輪のガイドレールに支持されカバーのつりさげ車輪のある側の端部をつりあげているものと認められる.

さらに、右(3)の、「への字形(第7図参照)から一文字形(第3図参照)となる」過程は、引用例の第7図及び第3図の対比からも、後続カバーがハッチコーミング上に運び出されて、すでにハッチコーミング上にある先行カバーとの接続状態が一文字形となる過程をいうものである。

(三)  引用例には、ハッチカバーの下部とハッチコーミングの端縁の接触の防止について、前記1(四)に認定した、「キッカー25は各カバーが水平位から垂直位へまたはその逆に移行する際、・・・パッキング部がコーミングの端縁に接触して損傷が生じないようにし」との記載、前記1(五)に認定した、「34は該つりさげ車輪のガイドレールであって格納位置上の両側に架設すると共に、カバー29がランプ31からキッカー25を経てハッチコーミング26上に運び出されるときまたはその逆行動をとるときカバー29の内側がハッチコーミング26の端縁に引っ掛からないように起伏時においてもカバー29を適宜の高さにつりあげておく」旨の記載及び前記1(七)(3)に認定した、「ガイドレール30にキッカー25を形成してランプ31の上端を高めたので、カバー29が直列展開から並列格納へまたはその逆へ移行する際接続部の結合と離脱に無理がかからず、コーミング26の端縁にパッキングが接触して損傷を生ずるおそれがなくなり、」との記載がある。

(四)  なお、成立について当事者間に争いのない乙第一号証の一ないし三(日本造船学会誌第四九六号・社団法人日本造船学会昭和四五年一〇月二五日発行)によれば、中西直久及び菊地貞博が右雑誌に、「講座 鋼製倉口蓋装置設計法(その1)」との論文を掲載し、まえがきで同論文は、「この時点において造船設計に携る各位のご参考に供するべく、鋼製倉口蓋の全般に亘って解説する」趣旨であることを明らかにした上、「シングルプル形式は、暴露甲板の水密鋼製倉口蓋として、最も古くから実用になり、今日でもなお多く使用されている形式である。」(乙第一号証の二、四八頁左欄「2シングルプル形式」の項)と述べ、さらに、シングルプル形式の鋼製倉口蓋において、「カバーを開閉するにはまずパネルを浮上して水密用パッキンの繋合を解き、ローラーによって走行できるようにせねばならない。このための浮上装置として手動から完全自動までの各種の段階がある。」(乙第一号証の二、四九頁左欄「ハ 浮上装置」の項)と記載していることが認められる。

また、右乙第一号証の二と前記甲第五号証によれば、引用例記載のハッチカバーは、右論文にいうシングルプル形式の鋼製倉口蓋に該当することが認められる.

右事実によれば、本願考案出願当時(昭和五一年六月五日)はもとより引用例記載の特許出願当時(昭和四七年二月一八日)においても、シングルプル形式のハッチカバーにおいては、ハッチ開口部に展開され蓋を固定した状態ではカバーが沈下し、カバーの下面に施されたパッキングとハッチコーミングを密接させて水密を保つようにされているが、カバーを格納するため走行させるときには、まず沈下しているカバーを各種の手段によって浮上させ、カバーの下面のパッキングとハッチコーミングとを引き離すことは慣用技術であったものと認められる。

引用例には、右のようなカバーの沈下、浮上を明示する説明も図示もないけれども、それは引用例の発明が前記1(一)の記載のとおり、カバーの直列展開時におけるカバー相互の接続部の緊締が確実でシール効果が完全であると同時に、並列格納に移行する際におけるそれらの離脱が容易になし得べきハッチカバーの自動連結装置を創作して提供することにあるため、右目的に直接関係しない慣用技術は当然のこととして省略されたものに過ぎず、前記1(六)に認定した、「49は・・・パッキングであって、・・・カバーの直列的展開固定時にコーミング26の上面に密接してシールするものである。」旨の記載及び前記7(一)(5)に認定した、「カバー29は最終的に一文字形となり、・・・コーミシグ26上に直列展開して固定される」旨の記載中の「固定」とは、右のようなカバーを沈下させることをも含む趣旨であると解することができる。

したがって、前記7(一)及び右8(三)のカバーを移行させることに関する引用例の記載は、カバーが適切な高さまで浮上し、カバーの下面のパッキングとハッチコーミングとが引き離されていることを前提とするものであると認められる。

(五)  右(三)の認定によれば、引用例のものにおいて、つりさげ車輪のガイドレールは、つりさげ車輪と共に、カバーがランプからキッカーを経てハッチコーミング上に運び出されるときまたはその逆行動をとるときカバーの内側がハッチコーミングの端縁に引っ掛からないように起伏時においてもカバーを適宜の高さにつりあげておく作用をするのであるかち、そのような作用をすることができるように架設されているものと認められる。

そして、右(二)に認定したように、前記7(一)(1)及び(2)の状態では、後続カバーのつりさげ車輪はつりさげ車輪のガイドレールに支持されカバーの少なくともつりさげ車輪のある側の端部をつりあげているものと認められるから、カバーの内側がハッチコーミングの端縁に引っ掛からないような適宜の高さにつりあげているものと認められる.

また、同じく右(二)に認定したように、前記7(一)(3)の状態のうち、「への字形(第7図参照)から一文字形(第3図参照)となる」過程は、後続カバーがハッチコーミング上に運び出されて、すでにハッチコーミング上にある先行カバーとの接続状態が一文字形となる過程をいうものであるから、接続状態が一文字形となる直前までの、「カバーがハッチコーミング上に運び出される」過程においては、つりさげ車輪のガイドレールとつりさげ車輪による、カバーの内側がハッチコーミングの端縁に引っ掛からないようにカバーを適宜の高さにつりあげておく作用を受けているものと認められ、引用例の第2図にも、ハッチカバーの先端が前記7(一)(3)のようにハッチコーミング上にある先行カバーとの接続状態が一文字形となる直前まで、つりあげられるように、つりさげ車輪のガイドレールがキッカーの左端付近まで架設されているのが図示されていることは明らかである。

さらに、右(三)に認定したように、引用例のものにおいて、キッカーは各カバーが水平位かち垂直位へまたはその逆に移行する際、パッキング部がコーミングの端縁に接触して損傷が生じないようにする作用をするものであるから、そのような作用をすることができるようにキッカーが形成されているものというべきである.

よって、引用例の第2図に符号28で示された線がコーミングの端縁部であるとすると、ハッチカバーの格納や展開に際し、ハッチカバーがコーミングの上端縁角部に邪魔され、ハッチカバーとコーミング上縁とが摺擦する旨の原告の主張は認めちれない。

(六)  次に、引用例のものは、前記1(一)のとおり、各カバーが直列展開の状態から並列格納の状態に移行する際に、接続部の緊締の離脱が円滑容易になし得ることも特徴の一つとするハッチカバーの自動連結装置を提供することを目的とし、1(四)のとおり、キッカーは各カバーが水平位から垂直位へ移行する際、接続部の離脱を円滑にするものであり、1(七)(3)のとおり、ガイドレールにキッカーを形成してランプの上端を高めたので、カバーが直列展開から並列格納へ移行する際接続部の離脱に無理がかからない効果を奏するものであり、直列展開の状態から並列格納の状態にカバーが移行する場合には、前記7(一)(6)の記載のとおり、並列格納から直列展開へ移行の場合とは逆の作用を経るのであり、展開の際の最後の一枚のカバー、即ち第2図の最右端のカバーは、7(一)(3)(2)(1)の作用を、その他のカバーは、7(一)(5)ないし(1)の作用を経て、連結ロッドの引き締め、歯型とピットの係合、嵌合は、順次接続の場合と逆の手順で緩められるのであるから、先行のカバーと後続のカバーの嵌合状態が完全に外れないとの原告の主張は認められない.

(七)  したがって、引用例の第2図に符号28で示された線がコーミングの端縁部であるとすると、当業技術者の常識では引用例記載のものは実施不能である旨の8冒頭記載の原告の主張は理由がない。

三  認定判断の誤り第2点について

1  成立について当事者間に争いのない甲第二号証、甲第三号証、甲第四号証の二によれば、本願明細書に記載された本願考案の目的、構成、効果の要点は次のとおりであることが認められる。

(一)  鋼製水密カバー方式のハッチカバーとして従来一般に用いられているものにおいて、ハッチカバー同志の隣接部における水密を得るには、一方のハッチカバー上面より他方のハッチカバー上面に向かって楔を打ち込み他方のハッチカバーの上縁を押圧し、これによりパッキングを押圧しているが、ハッチカバーの数が多くなると、楔の数も非常に多くなり、締付、開放作業が面倒となり、楔の破損、締め忘れ、抜き忘れなどの事故が発生する欠点があった。

最近のものとして引用例記載のものが提案されているが、連結部の噛合わせ構造が複雑で設備費が高価となるほか、自動操作用突起をハッチ開口端部におけるコーミング自体をうねらせることにより形成したものであるため、ハッチを被蔽したときシール作用の必然性からハッチ開口部は突起より前方に形成されなければなちず、ハッチ開口容積が狭小化されるという欠点がある。

本願考案はこのような従来の装置の欠点を解決せんとするものである(甲第二号証一頁2欄一三行から二頁3欄一二行まで)。

(二)  請求の原因二(本願考案の要旨)のとおりの構成。

本判決別紙本願考案図面第3図ないし第6図は本願考案の実施の一例の図面である。

(三)〈1〉  本願考案図面第3図ないし第6図の実施例において、隣り合うハッチカバーの後部と前部とが合体し、ハッチカバー同志の上下のずれがなくなるように順次自動的な連結が行われてハッチ開口部の全面を被蔽するようなさしめると共に両者間に介在させたパッキングによって水密も保たれる。第6図に見られるとおり、本願考案によれば、格納架台側に少し喰い込む位置までハッチカバーで完全に被蔽されてハッチ内容積を広く取ることができる(甲第二号証二頁4欄二四行から三三行まで)。

(2) 本願考案装置は、ハッチカバーの走行中ハッチカバーの隣り合う間隙をV字状に開いたり閉じたりすることによって突起体17と凹部18とを嵌合させ、ハッチカバー同志の上下方向のずれを防止し、しかも確実に水洩れ防止も行うことができるものであって、この作用は簡単な構成で自動的に行われるのであり、また格納架台側に少し喰い込む位置までハッチカバーで完全に被蔽されてハッチ内容積を広く取ることができるのであって、収容効率が飛躍的に向上する優れた装置である(甲第二号証三頁5欄九行から6欄四行まで)。

(3) なお、本願考案において格納架台Bのレール始端前方の一定距離隔てたハッチカバー上の位置に山型カムを設けることは引用例に示されている如き格納架台始端に連設されるものと比べて格納スペース寸法lを激減させることのできるものとなるのであり、またコーミング高さについても同様である。

第7図は同一寸法の船体及び同ハッチカバーでハッチカバーを七枚使用した際、両者の格納架台スペースl、l'及びコーミング高さh、h'の相違を比較したもので図Aは本願考案を、図Bは引用例のものを示す。これらに見られるとおり、本願考案のものは格納スペースが狭くて良いことから、これ相当分ハッチ内容積を広く取れるものとなるのであり、且つコーミング高さも低くなることから同一寸法下で構成がコンパクトとなると共に船体の安定化に寄与するものとなる(甲第四号証の二、別紙一頁三行から二頁二行まで)。

2  右1(三)の本願考案の効果は、いずれも引用例記載のものの奏する効果と比べて格段のものとは認められない。即ち、

(一)  右1(三)の(1)及び(2)の、ハッチカバーの走行中ハッチカバーの隣り合う間隙をV字状に開いたり閉じたりすることによって突起体17と凹部18とを嵌合させ、これにより隣り合うハッチカバーの後部と前部とが合体し、ハッチカバー同志の上下のずれがなくなるように順次自動的な連結が行われてハッチ開口部の全面を被蔽するようなさしめると共に両者間に介在させたパッキングによって水密も保たれ、確実に水洩れ防止を行うことができる効果は、引用例記載のものも奏することは、前記二1(一)、同二1(七)(1)(2)(4)、同二7(一)に認定した引用例の目的、作用、効果についての記載かち明らかである。

(二)  また、前記二7(二)に認定したとおり、引用例記載のものにおいて、引用例の第2図の最右端のハッチカバーは、線28で表されるハッチコーミングの右端縁までを完全に蓋をするものであり、右ハッチコーミングの右端縁は本願考案の格納架台に相当するつりさげ車輪のガイドレールの端よりも格納架台側に少し喰い込む位置にあることは、前記二8(五)に認定した、引用例の第2図に、つりさげ車輪のガイドレールがキッカーの左端付近まで架設されているのが図示されていることから明らかである。したがって、右1(三)の(1)及び(2)の、格納架台側に少し喰い込む位置までハッチカバーで完全に被蔽される効果は、引用例記載のものも奏するものである。

(三)  右1(三)の(3)の、本願考案は、引用例記載のものと比べて、格納スペースが狭くて良いことから、これに相当する分だけハッチ内容積を広く取れ、且つコーミングの高さも低くなることから同一寸法下で構成がコンパクトとなると共に船体の安定化に寄与するとの効果の記載は、引用例記載のものにおいては、キッカーは少なくともその一部がハッチ開口部後端よりも格納架台側に設けられているとの認識を前提とし、本願考案を右のように認識した引用例記載のものと比較したものであると認めちれる。そのことは、前記1(一)の、引用例記載のものは、ハッチ開口部は自動操作用突起より前方に形成されなければならず、ハッチ開口容積が狭小化されるという欠点がある旨及び本願考案はこのような従来の装置の欠点を解決せんとするものである旨の記載、本願考案図面第7図及びそれを引用する右1(三)の(3)の記載自体から明らかである。

しかし、引用例記載のもののキッカーの位置についての右のような認識が誤りであることは、前記二に判断したとおりであるから、右1(三)の(3)の効果は認められない。

仮に、本願明細書に記載された右1(三)の(3)の効果が、引用例記載のもののキッカーの位置が前記二に認定したとおりの位置である、即ち本願考案と引用例記載のものとの山型カム、キッカーの位置の相違が、本件審決が認定した相違点(二)のとおりとしても、そのような効果を奏するとの趣旨として検討しても、右のような効果は認められない。

まず、本願考案が引用例記載のものと比べて格納スペース寸法lを激減させることのできる理由として原告の主張する、ハッチコーミングの端縁より格納台側でのハッチカバーの回転スペースの長さを短くすることができるとの点について検討するに、山型カムの位置を本願考案のような位置にすることによって、引用例記載のものよりもハッチカバーの回転スペースの長さを短くできること及び一枚のハッチカバーの長さを長くでき、これによって、同じハッチ開口部の長さであれば、ハッチカバーの枚数を減らすことができること並びにそれらの根拠は、いずれも本願明細書に記載がなく、自明のことでもない上、これを認めるに足りる証拠もない。他に、本願考案と引用例記載のものとの山型カム、キッカーの位置の相違により、本願考案が引用例記載のものと比べて格納スペース寸法lを激減させることのできるものとなる理由は認められない。

また、本願考案と引用例記載のものとの山型カム、キッカーの位置の相違により、本願考案が引用例記載のものよりコーミングの高さを低くすることができること自体は、本願明細書及び本願考案図面に記載されているが、その根拠は記載されてなく、そのような効果を奏することは自明でもない上、これを認めるに足りる証拠もない。

本願考案図面中の第7図には、同一寸法の船体及び同ハッチカバーでハッチカバーを七枚使用した際、本願考案のものは引用例記載のものよりも、コーミング高さが低くなることが対照的に図示されているが、本願考案を示したA図においても引用例記載のものを示したB図においても、格納架台とこれに相当するつりさげ車輪ガイドレールの、デッキからの高さは、ハッチカバーの中間部付近に設けた格納用車輪、つりさげ車輪からハッチカバーの後端までの長さより幾分高く設けられている点は同様であるが、本願考案のA図においては、格納架台にはハッチ開口部に向かって下降する円弧部を有するレールが敷設されているので、コーミングの高さは格納架台より低くなっているのに対し、引用例記載のもののB図においては、つりさげ車輪ガイドレールとコーミングの高さはほとんど同じであるため、コーミングの高さはA図に示された本願考案のそれよりも高くなっていることは明らかである。しかし、それが、本願考案と引用例記載のものとの山型カム、キッカーの位置の相違によるものとは未だ認められず、むしろ、格納架台にはハッチ開口部に向かって下降する円弧部を有するレールが敷設されているか否かによるものと認められる。

ところで、ハッチカバー装置の格納架台に敷設するハッチ開口部に向うレールがその方向に下降する円弧部を有するようにしたものは、例示するまでもなく本願の出願前周知であるから、引用例に記載されたものの格納架台に敷設するレールをそのように構成する点に考案の存在を認めることができない旨の本件審決の相違点(一)についての認定判断は原告も認めるところであるから、そのような構成による効果も格段のものとは認められない。

3  原告は、本願考案の特別顕著な作用効果として、請求の原因四2のとおり〈1〉ないし〈8〉の効果を主張する。

しかし、右主張はいずれも、本件審決が引用例記載のもののキッカーの位置を誤認したことを前提とする主張と解されるところ、本件審決の引用例記載のもののキッカーの位置についての認定に原告主張のような誤りは認められないことは、前記二に認定判断したとおりであり、右主張は失当である。

原告は、仮定的に、本件審決の引用例記載のもののキッカーの位置についての認定に原告主張のような誤りは認められないとしても、本願考案は引用例記載のものと比較して、格段の効果を奏すると主張するが、この主張も認めることはできない。

即ち、原告主張の〈1〉の効果、即ち、ハッチコーミングの高さを法令で定められた限度に低く押さえることができるとの効果については、本願考案と引用例記載のものとの山型カム、キッカーの位置の相違により、本願考案が引用例記載のものよりコーミングの高さを低くすることができること自体は、本願明細書及び本願考案図面に記載されているが、その根拠は記載されてなく、真にそのような効果を奏することは自明でもない上、これを認めるに足りる証拠もないことは、右2(三)に判断したとおりである。

また、原告主張の〈2〉及び〈6〉の各効果、即ち、一枚のハッチカバーの長さを長くし、これにより、同じハッチ開口部の長さであれば、ハツチカバーの枚数を少なくすることができるとの効果、並びに、原告主張の〈3〉の効果、即ち、ハッチカバーの回転スペースを短くすることができるとの効果については、山型カムの位置を本願考案のような位置にすることによって、引用例記載のものよりもハッチカバーの回転スペースの長さを短くできること及び一枚のハッチカバーの長さを長くでき、これによって、同じハッチ開口部の長さであれば、ハッチカバーの枚数を減らすことができること並びにそれらの根拠は、いずれも本願明細書に記載がなく、自明のことでもない上、これを認めるに足りる証拠もないことは、右2(三)に判断した通りである。

さらに、原告主張の〈8〉の効果、即ち、ハッチカバー格納スペースを減少させ、その分だけハッチ開口部の長さを長くすることができ、長尺物の積み荷等の荷役の便宜を図ることができることについては、右〈3〉及び〈6〉の効果が認められない上、他に、本願考案と引用例記載のものとの山型カム、キッカーの位置の相違により、本願考案が引用例記載のものと比べて格納スペース寸法を激減させることのできるものとなる理由が認められないことは、前記2(三)に判断したとおりである。

次に、原告主張の〈4〉の船の総トン数を低く押さえることができるとの効果及び〈5〉の船の安定性を維持することができるとの効果については、前記1(三)(3)認定のとおり、本願明細書に、「コーミング高さも低くなることから同一寸法下で構成がコンパクトとなると共に船体の安定化に寄与するものとなる。」と記載されているが、右本願明細書の記載においても、また、原告の主張においても、右〈4〉、〈5〉の効果の生ずる原因とされている、〈1〉のハッチコーミングの高さを法令で定められた限度に低く押さえることができるとの効果が格段のものとは認められないことは前記のとおりであり、他に、それらの効果を格段に奏することを認めるに足りる証拠もないから、〈4〉、〈5〉の効果も格段のものと認めることができない。

原告主張の〈7〉の隣接するハッチカバーの継ぎ目の数が少なくなり、付属部品の数やくさびを使っての締め付け作業、開放作業の減少を図ることができるとの効果については、原告の主張においても、右効果の生ずる原因とされている、〈6〉の効果が認められないことは前記のとおりであり、他に、それらの効果を奏することを認めるに足りる証拠もないから、〈7〉の効果も認めることができない。

よって、原告の認定判断の誤り第2点の主張は認められない。

四  認定判断の誤り第3点について

認定判断の誤り第1点及び第2点についての原告の主張が認められないことは、前記二、三に判断したとおりであり、本願考案と引用例記載のものの相違点(2)について、当業技術者のきわめて容易に想到し得ることとした判断は正当と認められ、それらの判断と、原告も自ら認める、本件審決の本願考案と引用例記載のものとの相違点(一)(三)(四)の認定及びそれらの相違点について本件審決の判断を合わせ考えれば、本件審決の認定した本願考案と引用例記載のものとの相違点(一)ないし(四)は、全体としても当業技術者の容易に想到し得ることであり、またそれによる効果も引用例に記載されたもの及び本願の出願前周知のものから予測し得る以上の格別顕著なものを期待し得るものとは認められないとの判断も正当と認められる。

したがって、本願考案は引用例に記載されたもの及び本願の出願前周知のものに基づいて当業技術者がきわめて容易に考案することができたものとの本件審決の判断に誤りは認められない。

五  よって、その主張の点に判断を誤った違法のあることを理由に、本件審決の取消を求める原告の本訴請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 元木伸 裁判官 西田美昭 裁判官 島田清次郎)

別紙 本願考案図面

〈省略〉

別紙 引用例図面

〈省略〉

別紙 参考図

〈省略〉

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